上手に噛めない・食べるのが遅い時の支援法
「よく噛まずに飲み込んでしまう」「一口に時間がかかり、食事が長引く」など、咀嚼や食事のペースに関する悩みは多くの親が経験します。口腔機能の発達を理解し、適切にサポートすることで、円滑な食事時間と健やかな発達を促すことができます。
咀嚼能力の発達過程を理解する
- 7〜9ヶ月頃:上下の歯茎を使って潰せるようになる(すりつぶし開始)
- 9〜11ヶ月頃:歯茎で噛み砕けるようになる(すりつぶし発達)
- 1歳〜1歳半頃:前歯で噛み切り、奥歯で粗くすりつぶせるようになる
- 2歳頃:奥歯を使ってよく噛めるようになる(回転咀嚼の始まり)
- 3歳頃:臼歯を使った回転咀嚼が発達(大人に近い咀嚼パターン)
「噛めない・遅い」の主な原因
1. 発達的要因:
- 口腔周囲の筋肉の未発達
- 歯の生え方や咬合の問題
- 舌の動きのコントロールが未熟
2. 習慣的要因:
- 柔らかい食べ物への偏り
- 早食いの習慣(十分に噛まない)
- 食事中の集中力の散漫
3. 環境的要因:
- 不適切な食事環境(姿勢、椅子の高さなど)
- 食具の使い方の未熟さ
- 食事時間の不規則さ
咀嚼力を育てる具体的アプローチ
1. 発達に合わせた食材選び:
- 徐々に固さを段階的に上げていく
- 噛みごたえのある野菜(れんこん、ごぼうなど)の導入
- 弾力のある食材(イカ、こんにゃくなど)は発達に合わせて
2. 咀嚼を促す調理法の工夫:
- 一口大の適切なサイズ(大きすぎず、小さすぎず)
- 噛む必要のある固さの調整(煮すぎない)
- 切り方の工夫(繊維に垂直に切るなど)
3. 食事環境の整備:
- 安定した姿勢の確保(足がつく椅子の高さ)
- 適切なテーブルの高さ(ひじが90度になる)
- 集中できる環境づくり(テレビを消すなど)
4. 食事のペース調整:
- 一口ごとにスプーンやフォークを置く習慣
- 「よく噛んで食べようね」と声かけ
- 大人がゆっくり食べる姿を見せる
5. 口腔機能を高める日常の遊び・活動:
- 吹く遊び(シャボン玉、風車など)
- 吸う練習(ストローでの飲み物)
- 表情遊び(顔の筋肉を動かす)
食べるのが遅い場合の対応策
1. 現実的な食事時間の設定:
- 20〜30分を目安に
- タイマーやキッチンタイマーの活用
- 終了のシグナルを明確に(「あと3口で終わりにしよう」など)
2. 集中力を高める工夫:
- 少量から提供し、達成感を得やすく
- 食事に集中できる環境づくり
- 会話とのバランス(話しすぎて食べるのを忘れないよう)
3. 遊び感覚の導入(ただし過度にならないよう):
- 「いただきます」から「ごちそうさま」までのタイマー設定
- 「お腹の中の電車に食べ物を乗せよう」など想像遊び
- 「赤い食べ物→黄色い食べ物」など順番の提案
4. 摂食ペースを上げるコツ:
- 一口量の適正化(多すぎず、少なすぎず)
- 次の一口の準備(「次はブロッコリーを食べてみようか」)
- 間の水分補給を食後にまとめる(頻繁に飲むとペースダウン)
専門家に相談すべき状況
- 噛むことに痛みがある様子
- 頻繁にむせる、咳き込む
- 特定の食感だけを極端に避ける
- 月齢から見て著しく咀嚼が未熟
- 食べ物を口にためる習慣がある
長期的な視点で大切なこと
- 「遅い」ことを過度に問題視せず、個人差として受け止める
- 急がせることより、しっかり噛む習慣の方が長期的に重要
- 食事のペースよりも、食事を楽しむ雰囲気を優先する
- 発達に伴い自然と改善する面も多いことを理解する
咀嚼能力と食事のペースは、口腔機能の発達や食習慣の形成と密接に関連しています。無理に急がせるのではなく、発達段階に応じたサポートで、長期的に健全な食習慣を育んでいくことが大切です。